「アイスランド・ナショナルデー」開催レポート

5/29(木)に「アイスランド・ナショナルデー」を開催。Ásgeirら著名アーティストを迎え、初来日となるハトラ・トーマスドッティル大統領とともに“対話”と“文化交流”を通じて、平和とジェンダー平等を考えるひとときを演出
デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧5か国による共同出展で注目を集める北欧パビリオンでは、2025年5月29日(木)、アイスランドによるナショナルデー「アイスランド・ナショナルデー」が盛大に開催されました。北欧5か国の共同出展における各国ナショナルデーの一環として行われたこの日は、世界1のジェンダー先進国として知られるアイスランドとして「平和とジェンダー平等」をテーマに、アイスランドらしい文化と価値観に触れられる、まるでアイスランドを旅するような多彩なプログラムが展開されました。
本イベントは、午前の日本とアイスランドから様々な特別ゲストを迎えた対話を中心としたセッションで幕を開けました。ハトラ・トーマスドッティル大統領を始めとするアイスランドから来日したゲスト自らがSDGsやジェンダー平等について語る貴重な機会を提供しました。午後にはハトラ・トーマスドッティル大統領が北欧パビリオンをご見学され、アイスランドのアーティストが今回の展示のために書き下ろしたサウンドトラックが流れる空間や、アイスランドのデザイナーユニット、フリエッタ&イールラリ (Flétta and Ýrúrarí)によるウール産業で残ってしまったウールを使ったアートパフォーマンス「ピザタイム(Pizza Time)」を楽しまれました。大統領のご挨拶やÁsgeir(アウスゲイル)やJFDR(ヨウフリズル・アウカドッティル)といった著名アーティストのパフォーマンスを含む公式セレモニーをもって、文化交流と対話が紡いだアイスランド・ナショナルデーは、平和と平等への願いと共に力強くも穏やかにその幕を閉じました。
■午前の部:対話でひらくジェンダー平等の扉
未来、平和、そしてSDGs について若者とトークセッション(国連パビリオン)
アイスランド・ナショナルデーは、国連パビリオンでのディスカッションで幕を開けました。ハトラ・トーマスドッティル大統領が登壇し、日本および世界各国の若者たちと「平和」や「SDGs(持続可能な開発目標)」、「これからの未来」について対話を交わしました。広島を拠点とする放送局RCC中国放送のアナウンサー・中根由起氏をモデレーターに迎え、国連パビリオンの国連事務次長兼国連パビリオン陳列区代表を務めるマヘル・ナセル氏による開会挨拶から始まり、アイスランド国連ユース代表からのビデオメッセージ、大統領によるショートスピーチののちに、パネルディスカッションが行われ、様々な意見が飛び交うインタラクティブなセッションとなりました。
健康問題・子ども兵士の問題・持続可能なエネルギーなどの問題に真摯に向き合う2名の学生と国連パビリオンスタッフを迎えたトークセッションでは、「アイスランドは世界で最も幸せな国の1つですが、自立した市民を築き上げるためにどのようなサポートを提供していますか。」「世界には多くの課題があるなか、なかなか解決に至らない問題を目の前に落ち込んでしまうこともあると思いますが、どのように前に進むべきですか。」等の質問が挙がりました。ハトラ・トーマスドッティル大統領は、ご自身の経験を軸に「あなた方は希望の象徴です。行動をして困難な課題を解決しようとしていることに感謝します。今のように複雑で困難な世界においては、恐れ、怒り、落ち込みなどの様々な感情が浮かぶでしょう。ただ、何かが壊れているということは、光があるということです。北欧の中でもアイスランドは「クレイジーな国」だと自認していますが、そのクレイジーさがクリエイティビティや異なるアイデアに繋がり、様々な課題を抱える世界の中で変化を遂げる上で大事なのではと考えています。」など、親身にお答えになりました。
「世界ではじめての女性大統領のはなし」をテーマにしたトークセッション(北欧パビリオン)
北欧パビリオン内のイベントスペースでは、「世界ではじめての女性大統領のはなし」と題したトークセッションが行われ、絵本作家ラウン・フリーゲンリング氏と翻訳者・詩人の朱位昌併氏が登壇。アイスランド初、そして世界初の女性民選大統領であるヴィグディス・フィンボガドッティル氏の人生を軸に、女性のリーダーシップの可能性や多様性について語らうひとときとなりました。
セッション冒頭ではアイスランドの首都のレイキャヴィーク市長のヘイザ・ビョルグ・ヒルミスドッティル氏から「本セッションは一見遠く離れた国々である日本とアイスランドに共通する「文学」についてです。今回ご紹介する絵本『ヴィグディス』は、アイスランドで最も敬愛される人物の1人、世界初の女性民選大統領ヴィグディス・フィンボガドッティルさんの人生に着想を得た作品です。この力強い物語が、日本語でも読めるようになったことを心から嬉しく思います。」というご挨拶から始まり、子どもから大人まで参加しやすい、柔らかな語り口で進行されました。
ハトラ・トーマスドッティル大統領と語るジェンダー平等・ 女性のエンパワーメントに関するトークセッション(ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier)
続くプログラムでは、ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier(以下ウーマンズ パビリオン)の「WA」スペースにて、ハトラ・トーマスドッティル大統領が登壇。モデレーターにジャーナリストの大門小百合氏を迎えてトークセッションが行われました。2009年、社会に変革をもたらす女性起業家を支援する、カルティエの国際プログラム「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ」を受賞し、ファイナンスのバックグラウンドを持ち、アイスランド商工会で初の女性CEOを経て政治の世界に転身し、史上2人目の女性大統領となったハトラ・トーマスドッティル大統領が女性のエンパワーメントと持続可能な社会に向けた行動について、自らの歩みや経験をもとに語られました。「現在アイスランドの3党連立政権の党首が全員女性です。どういったマイルストーンや政策を経て達成したのでしょうか。」「なぜ民間でのキャリアを積んでいたところ、大統領を目指し、政治の世界に飛び込んだのでしょうか。」「ご自身のロールモデルはいらっしゃいますか。」等の、率直で示唆に富む対話が展開され、両国の学びが多い濃密なひとときとなりました。
■午後の部:アイスランドのサステイナビリティとアートが交差
アイスランドの文化が広がる北欧パビリオンを一般公開
午後は北欧パビリオンを中心としたプログラムが展開されました。展示ホールでは、アイスランドで活躍するシンドリ・マウル・シグフソン(Sin Fang)とキャルタン・ホルム(Kjartan Hólm)が今回の展示のために書き下ろしたサウンドトラックと共に、ビジュアルアート作品「The Circle of Trust」を展開。ビジュアルアート作品を手掛けたアイスランドのデザインスタジオGagarinからデザイナーを招き、制作者本人によるガイドツアーが行われました。デザイナーによるガイドツアーは大統領のみならず、一般の来場者の皆様もお迎えして実施しました。展示作品は今後も北欧パ ビリオンでご覧いただけます。
また、北欧パビリオン前では、ウール産業の残り素材を再利用し、ピザスライス型のアート作品を制作するアイスランドのデザイナーデュオ、Flétta and Ýrúrarí(フリエッタ&イールラリ)によるアートパフォーマンス「ピザタイム(Pizza Time)」が実施されました。抽選に当選した一般来場者に、世界に一つだけの特別なウールのピザがプレゼントされ、アイスランドらしいユニークで環境に優しい取り組みに、北欧パビリオン前にも笑顔が溢れるひとときとなりました。
公式式典:大統領の言葉とともに、音楽で締めくくる1日
夕方にはナショナルデーホール「レイガーデン」にて、公式式典が華やかに開催されました。ハトラ・トーマスドッティル大統領が再び登壇し、「北欧パビリオンの一員としてこの場に参加できることを誇りに思います。北欧諸国は1つです。単独ではどの国も小さな国ですが、5カ国が結束することで世界第11位の経済圏を形成しています。日本のことわざにもあるように、『一本の矢は簡単に折れても、束になれば折れない』のです。」と挨拶され、来場者の皆様から大きな拍手が送られました。
日本政府代表として、経済産業副大臣 内閣府副大臣 古賀友一郎参議院議員からも「日本とアイスランドは、1956年の外交関係樹立以来、約70年にわたり、両国は深い友情と信頼関係を築いてまいりました。アイスランドは火山や氷河など、独特の地形・地勢環境を有する島国であり、同じく島国である日本とは、地震や火山活動が活発である点、また伝統的に漁業が盛んである点など、多くの共通点を持っています。本万博を通じて、両国の相互理解がさらに深まっていくことを心より祈念いたします。」との祝辞が述べられました。
続いて行われたスペシャルパフォーマンスでは、アイスランド音楽の魅力が存分に披露されました。シンガーソングライターのJFDR(ヨウフリズル・アウカドッティル)は、その独自の世界観と静けさの中に潜む力強さで、聴く人の心に深く残るステージを披露。続いて2023年フジロック以来の待望の来日パフォーマンスとなるÁsgeir(アウスゲイル)は、情感あふれるボーカルで会場を魅了。作曲家・ピアニストのGabríel Ólafs(ガブリエル・オラフス)は、ピアノとストリングスによる繊細な旋律で、静かながら力強い時間を作り出しました。
3人のアイスランドを代表するアーティストによるパフォーマンスは、来場者の心に深い余韻を残し、アイスランドの奥深い文化と精神性に心が動かされるような特別な時間となりました。
アイスランド・ナショナルデーは、北欧パビリオンが提唱する「北欧とともに、より良い明日へ」というテーマを、文化と対話の力で具現化した象徴的な1日となり、北欧諸国が大切にする価値観が、国や世代を超えて響き合うひとときとなりました。